卒業論文アーカイブ

福島原発事故における責任と賠償のあり方をめぐる考察―東電無限責任論と被災者賠償の現状―

  • 年度
  • 平成26年度
  • 氏名
  • 鈴木 大河
  • 指導教員
  • 保木本
  • キーワード
  • 環境問題
  • 概要
  • 卒論では、福島原発事故における責任と賠償のあり方について考察をおこなった。具体的には「原子力損害の賠償に関する法律」(以下、原賠法)と、事故後の賠償のあり方を定めた「支援機構法」、この両法に規定された国や事業者の賠償責任のあり方について検討を加え、それとの関連のなかで、被災者賠償の現状とその問題点の考察をおこなった。日本の原賠法の最大の特徴は、事業者へ無限責任を課する規定である。本規定は厳格責任という点では一見先進性があるが、破局的事故に対処するという観点からは現実性を欠く規定である。本来ならば、事業者責任を補完する国の措置や国家補償が明確に規定されていなければならない。しかし現行原賠法にはそれらが欠落している。この賠償責任への国家関与の希薄性という問題点は、東日本大震災の原発事故を受けた政府の対応にも大きな影響を与え、結果的に、支援機構法では、東電の一義的責任を建前に掲げながら、国は、支援機構を媒介に東電へ賠償原資を注入し、東電株式取得と引き換えに東電の経営存続をはかるという実質国有化手法を取らざるを得ない事態を招いた。その結果、賠償実務のなかでも、最低限の基準として示されたはずの一般指針を賠償の上限と見なす姿勢や、ADRにおいて示された和解案を一方的に拒否する姿勢を、責任窓口たる東電が見せることで、賠償交渉は不全なまま、賠償問題の舞台は司法の場へ移される事態を招いている。東電無限責任論という建前を掲げ、国の責任や関与は前面に出ないまま進められている現在の賠償対応は、事故直後の混乱収束という観点からは一定の合理性があったと判断されるが、実質的な責任主体たりえないにもかかわらず、東電のみを直接的当事者の立場に置き続けるという事態が、賠償履行の現在のさまざまな問題をもたらしてもいる。今後は、国の責任をより明確に示した、新たな賠償責任の履行体制構築が必要と考える。

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